以前にも書いたと思うけど、ぼくが小学生の頃、虫歯を放置したまま学校の歯科検査に臨み、案の定虫歯を発見されて、しかし学校から指示された歯科治療をしないままでいたら、ある日の授業中にいきなり呼び出され、ぼくと同じように歯科治療をサボっていた下級生たちと共に、学校近くの歯医者に強制的に連行され、歯科治療を受けさせられたという悪夢のような、いや悪夢そのものの記憶は今もなお鮮明に残っている。ぼくはたしか小学4年生か5年生だったので、さすがに下級生の前で取り乱したりはしなかったけど、下級生たちの阿鼻叫喚を今でも思い出す。単純に比較できないけど、戦争において捕虜たちが受けた非人道的な扱いを思うにつけ、この記憶はその何万、いや何億分の1くらいの非道さだろうと思うし、ぼくが捕虜の非人道的扱いを許されざる行為だと思う根拠に、この記憶はある程度の影響を及ぼしているとも思うのだ。
このような児童の将来に配慮した愛の鞭的な行為は、今の世の中なら絶対にできないことだろう。そう思うと、あの記憶はホントに現実だったのかと思ってしまう。
そんな忌まわしい記憶がまだ生々しく残っていた小学生高学年のぼくは、これも何度かブログに書いていると思うけど、とあるニュースで、歯を再生治療するというニュースに触れ、一気に将来が明るくなった。
今でこそ、ES細胞とかiPS細胞などと再生医療の基礎がより進歩した時代に住んでいるけど、当時は再生医療という言葉すらなかったわけで、それでもぼくは再生医療の先進的な研究、しかも虫歯になって抜けてしまった歯を再び生やすことができるかもしれない再生医療の研究に、明るい未来を感じたものである。
あれから何十年も過ぎた。再生医療はさまざまに研究が進んでいて、実際の医療で使われることはないにしても、その数歩手前まで研究が進んでいる。しかし、未だに歯の再生が成功したという話しは出ていない。1個の細胞を分裂させて組織を作り、それを臓器にまで育てるのは、やはりまだまだ多くの研究が必要ということだろう。
そんな折、ぼくは小学生時代からの不摂生による因果応報が到来し、左下の奥歯を失ってしまった。奥歯がないので、入れ歯にすることもできず、ここでインプラントにするかの決断を迫られている。このまま放置すると、嚙み合わせとなっている左上の奥歯も痩せてきてしまい、抜け落ちてしまう恐れもある。緊急事態ではないけど、なるべく早めに決断した方がいい状態である。
しかし、インプラントは施術費用が高額である。特にぼくが通っている歯医者では、数十万円も費用がかかってしまう。その分、施術の完成度は高いのだけど、これほどのおカネをかける必要がホントにあるのか、悩ましいところである。今度、もう少しリーズナブルなインプラント治療ができる歯医者に行って、話しを聞いてみようと思う。これで先の高額治療について金額に見合った意義を見つけられれば、ぼくも決断できるかもしれない。
さて、先週のことである。インターネットのニュースサイトを見ていて、とあるニュースに目がとまった。
歯を失ってしまった後において、遺伝子に働きかけることで、歯の再生ができるかもしれないというのだ。既にラットによる実験では90パーセントほどの成功率を持つアプローチだそうである。
ニュースを齧り読んだ程度だけど、動物には歯が生えてこないようにするタンパク質があるそうで、このたんぱく質を活性化させる遺伝子の働きを抑制することで、歯が生えるようになるのだそうな。先天的に歯が生えない障害を持ったラットを使い、この遺伝子の働きを抑える施術をしたところ、歯が生えてきたのだそうな。ラットはニンゲンのように乳歯、永久歯というように歯が生え変わることはないにもかかわらず、しかも遺伝子操作によって先天的に歯が生えないようにしたにもかかわらず、それでも歯が生えてきたわけだから、ニンゲンへの効果はかなり期待できそうである。これからニンゲンに対する臨床が始まるそうである。ぼくに臨床に協力できる時間があれば、ぜひぼくの歯で臨床して欲しいところではあるけど、いずれにせよこの臨床で結果が出せれば、一般の医療の現場においても有効な治療法と採用されることも出てくるだろう。
再生医療という点では、患者の遺伝子そのものを操作して、歯を再生させるという手法は、先に記載した細胞を培養して臓器にする再生医療の方法とはまったく異なるものである。しかし、このニュースはぼくが小学生の頃に再生医療のニュースに触れて感じた明るい展望とまったく同質のものである。ニンゲンは歯を失っても、再び生えてくるように治療することができるところまで科学を発展させたのだ。いや、明るい未来が見えてきたわ。
しかし、非常に惜しい。
このニュースがあと10年、いや5年でも早ければ、ぼくの左下の奥歯に対しても、インプラントとは別の方法があったかもしれない。もはや決断を迫られているぼくに、このニュースは遅すぎた。残念なことである。
まあ、ぼくがまだ生きている間には、実用化されるかもしれないので、もしかしたら今後、2本目のインプラントを考えるまでには、遺伝子操作による歯の再生は実用化されているかもしれない。その意味では、このニュースはぼくには嬉しい知らせであった。その後の進展を楽しみにしている。
左下の奥歯については、インプラントをどうするか検討をしつつ、それでも新技術に強い期待をこめているのである。