「シュンスケニウムの原子量」の大統一バージョン
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しゅんすけも受けたい講義
「生命に仕組まれた遺伝子のいたずら−東京大学超人気講義録」(石浦 章一著)を読了しました。
本屋で出会って購入した本なんだけど、なかなか良かったな。講義録という形態、話しがすべて口語調なのは新鮮でした。遺伝子についていくつかの最新の知見が得られたのはとても有意義でした。
その中でしゅんすけ的に目からウロコの落ちるような話しがあって、これは後述するけど、今回は読んでみた講義録(口語)の形式については、良かった点もあり悪かった点もあった。たぶん、東大の授業で先生が喋っていることをほとんどそのままテキスト化して本にしたんだと思うけど、それゆえに、知見が割と新しいという点は評価できる。主題を特定してロジカルに構成するような一般の科学書では、執筆や制作に時間がかかるのか、こういう新しい知識がしゅんすけに届くのはもっと後になってからのハズだから、比較的新しい知識を読めるという点では良かったな。
ただ、口語で書いてあるがゆえに、前後の文脈や話者のテンションも考慮しないといけないのが、他の一般書とは違っていた。「その〜」とか「これは〜」とかの指示語が多いことも口語の特徴で、読んでいて一瞬文脈を見失うこともあった。そういう意味では、講義を単純にテキスト化している編集側にも問題ありと思う。(いくつかの部分では分かり易く編集してくれているのに、もったいない)
また、口語だからなのか、たびたび脱線があったりして、テーマを見失うこともあったかな。
それでも、先生のテンションに乗って、まさに東大の教室で話しを聞いている感覚を共有できれば、非常に分かり易いし、こんな面白い授業を受けている東大生は羨ましいと思う。(高校を卒業して間もない学生、しかも難関・東大に合格した学生に話す内容としては、言葉遣いも含めて少々稚拙感もなくはなかったけどね)

ちなみに、伊勢崎の某有隣堂でこの本に出会って購入して、フロアを出る時に、ふと目に入った本があって、これは脳神経に関する本だったんだけど、この本も講義録の形式をとっていたな。今回の本とは別シリーズなので、もしかして講義録をテキスト化して書籍化するのって流行っているのかな?
だとすれば、口語調の問題はあるにしても、次回はぜひ読んでみたいと思うのでした。

さて、今回の本でしゅんすけの目からウロコをシュバシュバ落とさせたのが、色彩の感受性に関する記述でした。
「あなたは私と同じものを同じように見ているのだろうか」という、ちょっと哲学的な問題に近い話しなんだけど、要は「自分の見ている赤いリンゴの赤さ加減は、あなたの見ている赤いリンゴの赤さ加減と同じか」ってこと。
たとえば「赤」って色も、まだ幼児の頃に「これが赤ですよ」と言われれば、たとえ「緑」であっても赤だと覚えるじゃないですか。色なんてニンゲンが作ったルールでしかないわけよね。
※色は所詮ニンゲンが作ったルールでしかない・・・というのは、そういや波長という絶対的な比較指標を考えれば、必ずしもそういうわけではないか。
赤であれば、周波数として405〜480THz(長さにして740〜625ナノメートル)だから、「この周波数が赤ですよ」と言えばいいわけだからね。

色彩の感受性について遺伝子レベルで言うと、例えばX染色体上にあるオプシンというたんぱく質が関係しているそうで、このたんぱく質の記述のある遺伝子部分が組み変わっちゃったりすると、いわゆる「カラーブラインドネス」と言われる色覚異常が起こるのだそうな。
話しはその遺伝子の組み換えの中で、オプシンがいくつも複製され、例えば赤色に反応するオプシン(赤オプシン(以下、赤オ))と緑に反応するオプシン(緑オプシン(以下、緑オ))の配列が「赤オ・緑オ」という標準的な配列に対して、日本人だと「赤オ・緑オ・緑オ」など複数の緑オプシンが配列されている場合が多いんだと展開し、「緑に反応するオプシンが多い人の方が、緑に対する感受性が高いんじゃないか」と述べるに至る。確かに、緑に反応する緑オプシンが多い方が緑色に対する感受性が高いように思えるんだけど、実はこの緑オプシンの数と緑色に対する感受性の話しは単なる前フリで、興味深い事実は赤オプシンに秘密が隠されていた。

赤オプシン(たんぱく質)を構成するあるひとつのアミノ酸は、人によってその種類が違うんだそうで、人口比率は分からないけど、ある人はセリンで、ある人はアラニンなんだそうな。どちらも問題なく赤色に反応するんだそうだけど、このアミノ酸の置換によって、赤色の波長に6ナノメートル程度の反応度合い(本書では吸収率と言っているけど)の違いがあるんだそうな。
この6ナノメートルが意味するのは、例えば鉄色っぽい赤色を見たときに、これを「深い赤色だ」と判定する人と「黒だ」と判定する人とがいるんだそうな。かなり微妙な差だけど、確かにそういう人がいるんだそうな。
だから、さっきの哲学的命題では、赤については、遺伝子上の問題で「あなたの見ているリンゴの赤は、私が見ているリンゴの赤とは違うことがある」と言えるわけですね。

ちなみに、しゅんすけは別に色覚に問題があるわけじゃないんだけど、よく色味についてはさきこと意見が合わないことがある。さきこが購入したおニューのランニングウェア(彼女はいつも「前からあった」と言う)の色がピンクなのか赤なのかで意見の食い違いがあった。あれは、しゅんすけの遺伝子とさきこの遺伝子で色彩感覚に違いを及ぼす遺伝子レベルの差異があるからなんだろうか?(いや、単に色認識のレベルの違いかもしれないけど)

ちなみに、赤オプシン・緑オプシンの配列についての個体差は、
赤オ・緑オ:38%(白人:22%)
赤オ・緑オ・緑オ:40%(白人:51%)
赤オ・緑オ・緑オ・緑オ:18%(白人:19%)
赤オ・緑オ・緑オ・緑オ・緑オ:4%(白人:8%)
となっているそうだが、形質として現れるのは、ひとつめと二つ目の遺伝子のみなので、3つ目以降にどれだけオプシンが続いても、緑色に対する感受性が高まるということはないんだそうな。
(緑オプシンの数が色彩の感受性に影響しないというのは、口語調の弊害でしゅんすけの読解力では2回読まないと分かりにくかったわ)

さて、この色彩に対する感受性については、東大のエラい先生が、「色彩のバリアフリー」を提唱しているそうで、確かにカラーブラインドネスの人は、カラフルな東京の地下鉄路線図を見ても、イマイチ伝わらないだろうし、そういうことを念頭に案内図は作られるべきだと、しゅんすけも同感なのでした。
(世の中には、水色とピンク色の区別や黄色と黄緑色の区別がつきにくい人がいるわけで、そういう色を混在させて案内図を作っても、伝わらないばかりか、大きな事故を誘発する場合もある、ということ)

他にも、遅ればせながら血液型(ABO式)に関する遺伝子レベルの知識や、インディアンにはO型が多く、中央アジアからヨーロッパにかけてB型の分布がキレイなグラデーションを描くように減少している様子が語られ、大学の一般教養でこういう話しを聞くと、大学が楽しくなりそうだし、しゅんすけのように一般教養の単位を落としたりしなかっただろうなと思うのでした。
(1000年くらい前に起こった中央アジアからのB型民族の拡大は、これがどうもチンギス・ハンによるモンゴル帝国の拡大と符号していたり、遺伝子の欠損により発現するO型がここまで増えたのは、当初の遺伝欠陥以上の生存上のメリットがあったんだろうという話しは、確かに興味深い)
その反面、口語で伝えられるので、ちょっとした脱線エピソードの中で、たぶん喋るテンションによってニュアンスが微妙に変わる話しがテキスト化されると正反対の意味に伝わったりする危険性があるなと思った。

※この話し方如何で意味が変に伝わっちゃう例として、先生が閑話休題的に話していた地球環境問題についての話しがある。
地球の二酸化炭素が急激に増加していて、世界規模で環境保全キャンペーンを打ち出しているけど、この二酸化炭素量って、実は恐竜全盛時代の白亜紀辺りの二酸化炭素量と比較して決して多すぎる値を取っていないんだよね。
つまり白亜紀の方が二酸化炭素量が全然多かった。
その辺の話しを大学生、しかもこれから日本を背負って立つ東大生にすると、「そっか、じゃ、世間で言うほど環境問題って深刻じゃないのかな」って思っちゃうかも知れず、こういう誤解は怖いなーと思うのでした。
※ちなみに、環境問題でこのように「昔はもっと環境が酷かった」などと言い出すと、それこそ35億年前に藻類が進化する前までは、地球上に酸素なんかなかったわけだし、氷河期の繰り返しで生態系なんかボコボコに打撃を受けただろうし、そもそも植物ってのは、今よりももっと二酸化炭素が多い環境の方が酸素を生成する効率が断然高いそうだしと、「一体何のための環境問題なの?!」と言いたくなるんだけど、それは、まさに環境問題の「WHY」の部分が抜けてるからに他ならず、偽善のように「地球に優しい」などとあたかも地球のためとか言ってるから論点がズレて、何が地球に優しいんだか分からなくなるし、そもそも地球の歴史でいうとほんの一瞬前に現れた地球在籍歴の浅いニンゲン風情が「地球に優しく」なんてオコガマシイと思うわけで、どこかでこの「WHY」を考えないと絶対どこかでオカシなコトになると思うわけです。

さて、諸々感じた今回の講義録だけど、総じてとても勉強になったし、面白かった。気をつけるべき点はあるにしても、今後こういう本がどんどん増えて欲しいし、その基になる一般向けの講義もどんどん増えて欲しいものである。
そういや、先日ノーベル賞受賞者の小柴さんが東大で講演するってんで、とても行きたかったんだけど、東京マラソン前日だったので諦めたことがあったな。こういう講演がどんどん増えて、しゅんすけもそのうち行けたらいいな。
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