オクターブアップ!

「シュンスケニウムの原子量」の大統一バージョン
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真夜中の爆走。

木曜日の夜11時、ぼくはクルマで首都高湾岸線を走っていた。スピードはかなり出ていた。ぼくはとても急いでいた。
いつもなら、自室でパソコンに向かってカチャカチャやったり、絵なぞの構想を練ったり、疲れてうたた寝したりしてる時間である。いや、ついさっきまでそうしていたのだ。ぼくが座るイスの傍らにはコウくんがいて、絶妙な距離感でデスクの上にチョコンと座ってぼくを見上げ、フクくんはぼくが和んでいる間、めぼしい食料はないかとキッチンやリビングをウロウロしていた。いつもの木曜日の深夜である。いや、いつもと違うことがひとつだけあった。
さきこがいないことである。

 

ぼくは深夜の湾岸線を走りながら、さきこのことを思い出していた。
さきこはこの日、会社のランニング仲間と一緒にレインボウブリッジの方にランニングに行っていた。暑い最中なので、いろいろ危なっかしいところもあったけど、一人じゃないしと安心していた。だからぼくもいつものように自室のパソコンに向かってカチャカチャやりつつ、そろそろツールドフランスの中継でも観るかなーとリラックスしていたのである。
そこにさきこから電話が入る。
「もしもし?」
こちらが問いかけるも返事がない。周囲の雑踏のような音が聞こえているので、どこか賑やかなところにいるのだろう。
「もしもーし?」
もう一度問いかけるも返事がない。なんだ?iPhoneの操作ミスで電話がかかっちゃったのかな?
その時、さきこの声が聞こえた。いつもよりも小さく弱々しい声である。
「ちょっと気分悪くて、倒れちゃった・・・」

 

なに?倒れた?
即座に熱中症だと思った。夜とは言え、こんな暑い日にランニングしたら、熱中症にもなる。どのくらい気分が悪いのか分からないけど、意識がしっかりしてるのでこの時は大したことはないように感じた。
「どうした?熱中症か?」
「・・・・・」
応答がない。先ほどから聴こえる雑踏の音だけが受話器から聴こえる。
「もしもしー!もしもーし!」
ぼくが問いかけるも返事がない。これはどういうことだろう。ちょっとドキドキしてきた。いや、待て、雑踏の中から人の声が聞こえる。「どうしました?」と声をかける女性らしき声、「お客さーん?聞こえますー?」と問いかける男性の声。雑踏の中から聞き覚えのあるチャイムの音が聞こえた。これは京急品川駅で電車が来るのを知らせるチャイムの音である。つまり、さきこは品川にいる。
「もしもーし!もしもーし!もしもーし!」
何度も問いかけるも返事はない。問いかけ続ければ先ほどの女性や男性が代わりに答えてくれるかもしれないと思い、かなり大きな声で問いかけ続けたが、電話はふいに途絶えてしまった。

 

これは一大事だ!
さきこは品川で倒れたのだ。熱中症の可能性が高いけど、まだ分からない。とにかく品川に行かねば。冷蔵庫から冷えたペットボトルの水を2本ほど取り出して、ビニール袋に入れ、適当な服に着替えて出かける準備をした。
ネコたちは先ほどまで和み切っていたぼくが突如慌ただしくなったので、「何事かッ?」と驚いたように廊下を駆け回っていた。
もう一度さきこに電話をする。何度かのコールでさきこが出てくれた。
聞くところによると、ランニングの後にビールを飲んだようである。どのくらい飲んだか分からないけど、水分不足のところに酒など飲むのは危険である。まさか急性アルコール中毒ではあるまいか。嫌な予感ばかりが思い起こされ、迎えに行くことを告げてぼくは家を出てクルマに乗って品川に向かった。
こうして、平日の深夜の首都高湾岸線を爆走することになるわけである。

 

深夜の上り車線はトラックが数台いるだけで、走っている車両はほとんどなかった。焦っていたので、スピードがどんどん速くなっていく。しかし一方で、ぼくが焦って事故でも起こしたりスピード違反で捕まったりしたら、余計に遅くなってしまう。安全運転しつつなるべく急いで走った。
それにしても、最近はなんだか嫌なことが多い。会社の同僚が急逝したのは先月下旬である。友達や会社の同僚にも家族にご不幸があった方が少なくない。今年は特に多いような気がした。ここでその中にぼくが加わるわけにはいかないのだ。
30分ほどで品川に着いた。JR品川駅前のロータリーにクルマを停めて、駅員室に行く。先ほど女性が倒れてこちらにいるハズだと言うと、プラットホームの駅員室に案内された。そこにはアコーディオンカーテンで仕切られた小部屋が2つ並んでいて、そのうち一つはアコーディオンカーテンが閉じていた。ここにさきこがいるそうである。
声をかけて恐る恐る開けると、さきこがタオルケットをかけられて横たわっていた。ぼくの問いかけに反応がある。おお、とりあえず生きていた!ぼくは大きく深呼吸して胸をなでおろした。

 

ランニング後の打ち上げで、喉が渇いたところでビールを飲んだんだそうな。それほどの量ではないそうだけど、それでも折からの疲労や寝不足などもあって、すぐに気分が悪くなっちゃったんだそうな。飲み屋からの帰り道でも一度倒れたそうである。同僚の方に介抱されて、なんとか京急品川からウイング号で帰ろうとしたところ、それを待つベンチで再び倒れたそうである。ぼくに電話をしている最中に突然ばたっといったそうで、それを女性が見つけて駅員さんを呼んでくれたそうである。声をかけてきた女性や男性がそうだったのか。
それにしても、ランニングの後で喉を潤すためにビールを飲むとは・・・。さきこも何年もランニングを続けてきて、経験でも頭でも分かっていただろうに、その場の雰囲気で結構な勢いでビールを飲んでしまったのだろうか。アルコールの分解にはATP(アデノシン三リン酸)と水が必要なのだ。もともと水分が欲しいところで、アルコール分解に水分を使われてしまい、脱水症状のような状態になったのだろう。

 

いやホント、無事でよかったわ。
帰宅後に徐々に回復してきて、翌朝には少し元気になっていたから、もう大丈夫だと思うけどね。真夏のランニングはホントに危険なのである。走る時は気を付けないとね。
それにしても、真夜中の首都高を爆走している時は心中穏やかではなかったな。あんなドキドキはあまり歓迎したくないよね。

 

ちなみに、さきこが休んでいた品川駅の駅員室内の小部屋は、アコーディオンカーテンで仕切られる以外にも特徴的な設えがあった。ベッドの枕元には、大きな洗面台がついていて、そこには蛇口ではなく、トイレの便器についているようなコックがついていた。嘔吐したものをそのまま流せるようにしているみたい。また強く引っ張ると呼び鈴が鳴るナースコールならぬ駅員コール的な器具もあって、まさに気分の悪くなったあまたの酔っ払いがこのベッドで休んだことが伺い知れた。昔からお世話になってる品川駅だけど、駅員室のドアの向こうにこんな設備があったなんてね。

| 日記 | 13:55 | comments(0) | trackbacks(0)
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