夜の東名高速をチンクは爆走する。
いや、今までのブログでの記述でも「チンクでぶらり爆走」などと書いて実は時速80キロ程度のスピードで後続車にびゅんびゅん抜かれていたのが実状だったのだけど、昨日の東名高速の爆走はちょっと違っていた。時速は90キロ(これでも相当速い)、後続車に抜かれることもなく、どちらかと言うと抜いていた。90キロで現代車に勝てるわけがないわけで、ゆるゆると渋滞している中を縫うように走っていたということであるが、さて何がしゅんすけをそこまで急がせていたのか。だいたいチンクはやさしく乗ってあげるべきクラシックカーなのに、がんがん走るとは一体どういう了見か。それは昨日から始まったXデーと、しゅんすけが金曜日にさまざまなリスクを背負いつつチンクで出勤したことが大きく関係しているわけである。
昨日書いたとおり、今週末はXデーなわけだけど、今までのXデーとは規模が異なり、今回のXデーを「携帯電話」とするなら今までのはまさに「ポケベル」、今回のXデーを「キャノ●デールのロードバイク」とするなら今までのはほとんど「三輪車」、今回を「ティラノサウルス」とするなら今までのは「エリマキトカゲ」と、何とか分かりやすい例えを出そうとして全然分かりやすくないんだけど、そのくらいアンドロメダ級のメガトン級のXデーであることは分かるかと思うのだが、併せて週末は楽団の練習があるわけで、4月は次の演奏会に向けてキックオフ的にいろいろ決めないといけない時期で、企画運営面でちょっとノッピキならない状況なわけで、この二つの要素が、金曜のチンク出勤につながり、かつ夜の東名高速を文字通り爆走する結果を招くわけである。
「いやあ、この石膏ボードのエンドの処理が・・・」などと内装工事のおじさんが職人気質なことを言うもんで、それに付き合ってたら、時間が遅くなってしまったのである。昨日も書いたけど、5分でもいいから練習に参加したいしゅんすけだったけど、ホントに5分だけになりそうな雰囲気であった。
実は木曜くらいに楽団の方より電話があって、しゅんすけの立場上、ここは遅刻でも参加すべきでは的な助言があって、たしかにオッシャるとおりなわけなのである。作業がひとまず終了し会社を飛び出た後も、この方から途中何度か電話があり、練習に参加できるのか心配してくださっていた。
事前に会社でネット検索すると、会社から練習会場の川崎まで30キロ弱の距離で、東名高速を使えば30分以内に到着できそうであった。行けチンク!お前の限界を見せてみろ!しゅんすけの踏むアクセルにも力が入る・・・って、せっかちなオーナーを持つチンクは気の毒である。
途中渋谷で渋滞に巻き込まれた時にゃ、ほとんど咆哮に近い絶望の雄叫びをあげてたから、相当焦っていたんだと思う。練習に間に合う云々よりも交通事故で死んじゃったりしたらもう楽器演奏なんかできないわけでそう思うと自制するんだけど、とは言えちんたら走って今までの苦労が水の泡でもいいのかなどと様々な激しい葛藤の中、夜の街並みを縫うようなハイウェイをチンクは爆走したのであった。
結果的には練習終了10分前に練習会場に到着。
ウォームアップをして譜面台を用意して・・・などとしていたら、5分経っちゃったんだけど、遅れてきたしゅんすけに配慮をいただき、一回だけ合奏をしてくれた。その曲はしゅんすけのソロ曲であり、この内容如何では次の演奏会でしゅんすけがソロを吹くかもしれない曲であった。
初めて見る譜面を前にほとんど初見での合奏が始まる。
ゆっくり始まる前奏を3小節待って、3小節目4拍目から始まるソロ。なかなか聞かせる曲である。やさしくも切ない感じのいい曲である。しゅんすけはこれを吹くために金曜からのXデーを乗り越えてきたのである。この5分のため、このソロ曲のために、乗り越えてきた徹夜作業、高速道路の爆走、焦り、絶望・・・。ちょっと感動した。
楽曲自体がスゴく良いのに加え、ここまで来たしゅんすけの頑張りが無駄じゃなかったこと、しゅんすけを心配して電話くれた方の心遣い、しゅんすけを待っててくれてしゅんすけのソロ曲を合奏してくれる楽団の方の心遣いがとても嬉しかった。思わず涙腺が緩んでしまった。
しゅんすけはこういう温かい心遣いに触れても、何となく恥ずかしさが先行してしまい、感謝の気持ちをうまく表現できなかったり、泣けてくるほど嬉しい時でも何となくヨソヨソしいというか他人事のような態度だったりして、その辺が自己嫌悪だったりするのだけど、特に誰が見ていたわけではないけど、少なくともしゅんすけの内部では確実に感情の大きな波が渦巻いていた。感極まるというのはこういう感じだろうか。確かに内部的に何かが極まっていた。
楽器を演奏してこういう気持ちになったのは、実は初めてである。
5分だけの演奏で何ができるとタカをくくっていたが、これはしゅんすけが過去に経験した充実した練習の5本の指に入るくらいの練習ではなかっただろうか。たった5分である。
こういう経験がたまにあるから音楽とは麻薬である。いやはや参ったね。
練習会場を後にして、第三京浜を横浜方面へ走るしゅんすけの気分はホント充実していた。オレンジ色の照明に照らされた高速道路の暗いアスファルトの先に、明日も朝から始まるXデーの続きがあるのだけど、そう思ってもさほどウンザリした気分にはならなかった宵であった。