2012.05.29 Tuesday
夢の画材メーカー。
しゅんすけがこの世で一番幸せを感じる時のひとつは、絵なぞを描いている時間である。構想をイメージし、下絵を起こし、組み合わせ、着彩用の紙に転写し、主線を起こし、色を塗っていく。そして描き上げたそれをパソコンに取り込んだり、某SNSに載せたり、人にあげたり、さきこに見せたりする。この一連の作業は後戻りできない緊張感の連続だけど、それがまた充実感を生み、結果としてしゅんすけにかけがえのない時間を提供してくれる。絵なぞの完成度や上手い下手ではなく、とにかく絵なぞを描いている時間そのものが至福のヒトトキなのである。
そんな至福のヒトトキに欠かせないのが、画材の数々である。そのどれもが様々な思い入れがある画材だけど、今日はその中のひとつ、トレス台のことである。そう、先日の修理譚の続編である。
5年ほど前に購入したトレス台が、その2年後に「ジーっとついてフッと消える」という不具合を生じ、「使えなくはないけど非常に使いにくい状態」が続いていたところ、ふとしたことから修理に出したことを先日書いた。メーカーから修理完了のお知らせが来て、その修理代が非常に安かったというところまで書いた。
先日の修理完了のお知らせの時には、実は金額だけではなく、他にも非常に重要なことを告げられていた。
曰く、(1)修理の済んだトレス台は宅配便にて返送されること、(2)宅配便は代引配送とし、宅配便業者に修理費、手数料、配送費を支払うこと(これが先日書いた3000円そこそこの金額である)、(3)配送は5月28日月曜になること、である。
メーカーと話しを終え、いろいろ考えるにつけ、この3点がだんだん気にかかるようになってきた。つまり「月曜日に」「宅配便で」「代引配送される」ということは、平日の昼間に自宅にいないしゅんすけには受け取ることができないんじゃないか。宅配便業者は来る日も来る日も自宅に来て不在票を投函していくけど、代引配送なばかりにマンションの宅配ボックスに入れることもできず、結局しゅんすけがトレス台を受け取れるのは次の週末なんじゃないか、ということである。せっかく早く直してくれたのに、しゅんすけが使えるのはほとんど1週間後ということである。
さて、どうしよう。
トレス台はしゅんすけが絵なぞを描く際には欠くことのできない画材のひとつである。ここのところ右脳の活動がぱったり止んで、絵なぞを描くことも、描けそうな兆候すらも微塵もない日々が続いているけど、このまま1週間も右脳が活動しないという保証はない。いざ絵なぞを描くとなったら、手元にはすべての画材が臨戦態勢でスタンバっていて欲しいのである。だから右脳が活動するかどうかは別として、とにかく早くトレス台が欲しかった。
そこで考えた。
月曜に届くのであれば、きっとメーカーからは既に発送済だろうから、宅配便業者に連絡して早めに持ってきてもらえばいいのだ。今日(土曜日)ならしゅんすけもしばらく自宅にいるのでお金も払えるし、トレス台も予定より2日ほど早く戻ってくることになる。そこで宅配便業者に電話して、氏名や住所を告げ、しゅんすけ宛に代引配送がないかどうか聞いてみた。
しかし答えはノー。しゅんすけに届けられるべき配送物はないそうである。う〜ん、そんなわけはないのだが・・・と思い、画材メーカーに連絡して宅配便の配送番号を確認することにした。
土曜日なので営業しているか不安だったけど、画材メーカーにかけた電話は数コールの後に相手が出た。男性である。物腰の優しそうな人である。そこでしゅんすけは、上記のような事情を説明し、既に配送しているのなら配送番号を教えて欲しいと言ってみた。すると彼は「まだ送っていません」と言う。
え?まだ送っていない?ということは今そこにあるってこと?修理を終えて発送を待つトレス台がそこにあるということだよね?
そうであれば話しは変わってくる。修理に出す時に分かってたことだけど、この画材メーカーは川崎にあるのだ。川崎に修理の終わったトレス台があるのである。うん、これは行くしかない。
今からそちらに向かうがよろしいかと告げると、このおじさんは別に構わないと自分の名前を教えてくれた。ぼくを訪ねて来てください、と。そう、確かに彼はそう言ったのだ。
それからしゅんすけはさきこと一緒に手配したクルマに乗って第三京浜をするっとかっ飛ばして川崎市内某所にある画材メーカーを訪ねたのだ。
画材メーカーに行くのは人生で初めてである。画材メーカーは星の数ほどもあるけど、そのどれもがしゅんすけの至福のヒトトキを演出するに欠かせない画材たちを生み出す会社である。画材という魔法の道具を生み出す夢の工房。しゅんすけは画材メーカーに強い憧れを持っている。会社としてはしゅんすけが勤める会社と同じ土俵で商売しているわけなんだけど、なんて言うか魔法の国の職人集団とも言うべき現実離れした世界を思い描いていたのである。
しかし、である。
しゅんすけが到達したその画材メーカーは、まるっきり町工場的風情の建物だった。決して広くない土地に4階建てほどの建物は白い外壁に覆われていたけど、なんていうか、昔ながらの事務所兼工場といった感じで、そう、しゅんすけが以前勤めていた会社ほど古くはないけど、その延長線上にあるそれだった。
ちょっと力を入れないと開けられない鉄扉を引いて中に入ると、ほとんど真っ暗な世界だった。いやまあ土曜日なので、営業していないからなんだけど、次第に暗闇に目が慣れてきてまず見えてきたのが、フォークリフト、簡易的な梱包ライン、部屋の隅には昔ながらのタイムカード打刻機と30枚程度のタイムカード、天井からぶら下げられたビニールの短冊(これは工場勤務をした人でないとイメージしにくいかな)と、とにかくすべてが町工場的風情であった。
こ、これが画材メーカーなのか・・・。
ちょっとたじろいでしまった。いや、このメーカーは日本でも有数の、いやヘタをすると世界的にもそれなりに流通している画材メーカーの本店である。これは一体どういうことなのか・・・。
事態が飲み込めないでいると、暗がりの向こうにある事務所と思しきドアが開いておばちゃんが出てきた。魔法の国の職人・・・ではなく、普通のおばちゃんである。
しゅんすけが事情を告げて、先ほど電話で話した人の名前を言うと、すべて分かったような素振りで事務所に戻り、電話で何やら話したかと思うと、「もうすぐここに来るから」とだけ言って、そのまま外に出て、敷地内に停めてあったクルマに乗り込んでそのままどこかに行ってしまった。なんなんだ?
それから、そうだな5分くらいはその場にいたかな。もうすぐここに来るという、先ほどの物腰優しい男性は一向に姿を現さない。仕方がないので、暗い構内をしばらく見て回った。配送ラインとは言え、そこに梱包しかけの製品があるわけでもなく、いやそう言えば、画材らしい製品はこのどこにも置いてなくて、ただ巨大なフォークリフトがずでんっとそこに鎮座しているだけだった。ここはホントに魔法の国、いや画材メーカーなのだろうか。
こうしてしばらく待っていたところ、再び奥の事務所から人が出てきた。今度は男性である。水色っぽい作業着を上下に着ている彼にまた事情を告げると「あれぇまだ来てない?」と言って、事務所に戻って電話をかけてくれた。この建物のどこかにいる先ほどの物腰優しい男性はしゅんすけが来ていることを忘れちゃったのか?
「今来ますよ」と言って、別の鉄扉を開けてその奥の階段をたったか上っていってしまったのだけど、すぐに同じ鉄扉がばたんと開いて、別の人が出てきた。先ほどの人と同じように水色の作業着を下だけ履いて、上はランニングシャツである。このおっさんは誰だ?と思ったら、この人が電話口の物腰優しい男性なのであった。なんかショック。
既にこの段階でしゅんすけの幻想は完全に瓦解していた。画材メーカーで働く人たちは別に魔法の国の職人集団でもなんでもなくて、厳しい日本経済の中しゅんすけと同じように働くサラリーマンなのである。このおっさんも単にビジネスとして、日銭を稼ぐ手段のひとつとしてしゅんすけのトレス台に向き合っているに過ぎないのだ。もはやしゅんすけの中に幻想的な画材メーカーのイメージはなくなっていた。
とにかく、トレス台である。トレス台をいただければ、もはやここに用はないのである。
しかし、そう、ここまで来てさらに「しかし」が続くのである。
「いや、ここにはありませんよ。修理から戻ってきてませんから」
・・・あぁ、もうどういうことなのか。
しゅんすけの至福を演出してくれる画材たち。それを作る人たち。しゅんすけの中で彼らに対する憧憬や幻想はなくなってしまったけど、でもしゅんすけを幸せにしてくれる道具を作り続ける彼らへの尊敬はいささかも目減りしていない。彼らがしゅんすけと同じ世界で、非常に現実的に画材を作り続けているという現実を知っただけである。しかし、それで良かったのだろう。現実を知ることで、画材を取り巻く環境をより現実的に認識することができたのだから。うん、そうである。
さて、その後どうなったのか。しゅんすけのトレス台はどうなったのか。また続きがある・・・かもしれない。
そんな至福のヒトトキに欠かせないのが、画材の数々である。そのどれもが様々な思い入れがある画材だけど、今日はその中のひとつ、トレス台のことである。そう、先日の修理譚の続編である。
5年ほど前に購入したトレス台が、その2年後に「ジーっとついてフッと消える」という不具合を生じ、「使えなくはないけど非常に使いにくい状態」が続いていたところ、ふとしたことから修理に出したことを先日書いた。メーカーから修理完了のお知らせが来て、その修理代が非常に安かったというところまで書いた。
先日の修理完了のお知らせの時には、実は金額だけではなく、他にも非常に重要なことを告げられていた。
曰く、(1)修理の済んだトレス台は宅配便にて返送されること、(2)宅配便は代引配送とし、宅配便業者に修理費、手数料、配送費を支払うこと(これが先日書いた3000円そこそこの金額である)、(3)配送は5月28日月曜になること、である。
メーカーと話しを終え、いろいろ考えるにつけ、この3点がだんだん気にかかるようになってきた。つまり「月曜日に」「宅配便で」「代引配送される」ということは、平日の昼間に自宅にいないしゅんすけには受け取ることができないんじゃないか。宅配便業者は来る日も来る日も自宅に来て不在票を投函していくけど、代引配送なばかりにマンションの宅配ボックスに入れることもできず、結局しゅんすけがトレス台を受け取れるのは次の週末なんじゃないか、ということである。せっかく早く直してくれたのに、しゅんすけが使えるのはほとんど1週間後ということである。
さて、どうしよう。
トレス台はしゅんすけが絵なぞを描く際には欠くことのできない画材のひとつである。ここのところ右脳の活動がぱったり止んで、絵なぞを描くことも、描けそうな兆候すらも微塵もない日々が続いているけど、このまま1週間も右脳が活動しないという保証はない。いざ絵なぞを描くとなったら、手元にはすべての画材が臨戦態勢でスタンバっていて欲しいのである。だから右脳が活動するかどうかは別として、とにかく早くトレス台が欲しかった。
そこで考えた。
月曜に届くのであれば、きっとメーカーからは既に発送済だろうから、宅配便業者に連絡して早めに持ってきてもらえばいいのだ。今日(土曜日)ならしゅんすけもしばらく自宅にいるのでお金も払えるし、トレス台も予定より2日ほど早く戻ってくることになる。そこで宅配便業者に電話して、氏名や住所を告げ、しゅんすけ宛に代引配送がないかどうか聞いてみた。
しかし答えはノー。しゅんすけに届けられるべき配送物はないそうである。う〜ん、そんなわけはないのだが・・・と思い、画材メーカーに連絡して宅配便の配送番号を確認することにした。
土曜日なので営業しているか不安だったけど、画材メーカーにかけた電話は数コールの後に相手が出た。男性である。物腰の優しそうな人である。そこでしゅんすけは、上記のような事情を説明し、既に配送しているのなら配送番号を教えて欲しいと言ってみた。すると彼は「まだ送っていません」と言う。
え?まだ送っていない?ということは今そこにあるってこと?修理を終えて発送を待つトレス台がそこにあるということだよね?
そうであれば話しは変わってくる。修理に出す時に分かってたことだけど、この画材メーカーは川崎にあるのだ。川崎に修理の終わったトレス台があるのである。うん、これは行くしかない。
今からそちらに向かうがよろしいかと告げると、このおじさんは別に構わないと自分の名前を教えてくれた。ぼくを訪ねて来てください、と。そう、確かに彼はそう言ったのだ。
それからしゅんすけはさきこと一緒に手配したクルマに乗って第三京浜をするっとかっ飛ばして川崎市内某所にある画材メーカーを訪ねたのだ。
画材メーカーに行くのは人生で初めてである。画材メーカーは星の数ほどもあるけど、そのどれもがしゅんすけの至福のヒトトキを演出するに欠かせない画材たちを生み出す会社である。画材という魔法の道具を生み出す夢の工房。しゅんすけは画材メーカーに強い憧れを持っている。会社としてはしゅんすけが勤める会社と同じ土俵で商売しているわけなんだけど、なんて言うか魔法の国の職人集団とも言うべき現実離れした世界を思い描いていたのである。
しかし、である。
しゅんすけが到達したその画材メーカーは、まるっきり町工場的風情の建物だった。決して広くない土地に4階建てほどの建物は白い外壁に覆われていたけど、なんていうか、昔ながらの事務所兼工場といった感じで、そう、しゅんすけが以前勤めていた会社ほど古くはないけど、その延長線上にあるそれだった。
ちょっと力を入れないと開けられない鉄扉を引いて中に入ると、ほとんど真っ暗な世界だった。いやまあ土曜日なので、営業していないからなんだけど、次第に暗闇に目が慣れてきてまず見えてきたのが、フォークリフト、簡易的な梱包ライン、部屋の隅には昔ながらのタイムカード打刻機と30枚程度のタイムカード、天井からぶら下げられたビニールの短冊(これは工場勤務をした人でないとイメージしにくいかな)と、とにかくすべてが町工場的風情であった。
こ、これが画材メーカーなのか・・・。
ちょっとたじろいでしまった。いや、このメーカーは日本でも有数の、いやヘタをすると世界的にもそれなりに流通している画材メーカーの本店である。これは一体どういうことなのか・・・。
事態が飲み込めないでいると、暗がりの向こうにある事務所と思しきドアが開いておばちゃんが出てきた。魔法の国の職人・・・ではなく、普通のおばちゃんである。
しゅんすけが事情を告げて、先ほど電話で話した人の名前を言うと、すべて分かったような素振りで事務所に戻り、電話で何やら話したかと思うと、「もうすぐここに来るから」とだけ言って、そのまま外に出て、敷地内に停めてあったクルマに乗り込んでそのままどこかに行ってしまった。なんなんだ?
それから、そうだな5分くらいはその場にいたかな。もうすぐここに来るという、先ほどの物腰優しい男性は一向に姿を現さない。仕方がないので、暗い構内をしばらく見て回った。配送ラインとは言え、そこに梱包しかけの製品があるわけでもなく、いやそう言えば、画材らしい製品はこのどこにも置いてなくて、ただ巨大なフォークリフトがずでんっとそこに鎮座しているだけだった。ここはホントに魔法の国、いや画材メーカーなのだろうか。
こうしてしばらく待っていたところ、再び奥の事務所から人が出てきた。今度は男性である。水色っぽい作業着を上下に着ている彼にまた事情を告げると「あれぇまだ来てない?」と言って、事務所に戻って電話をかけてくれた。この建物のどこかにいる先ほどの物腰優しい男性はしゅんすけが来ていることを忘れちゃったのか?
「今来ますよ」と言って、別の鉄扉を開けてその奥の階段をたったか上っていってしまったのだけど、すぐに同じ鉄扉がばたんと開いて、別の人が出てきた。先ほどの人と同じように水色の作業着を下だけ履いて、上はランニングシャツである。このおっさんは誰だ?と思ったら、この人が電話口の物腰優しい男性なのであった。なんかショック。
既にこの段階でしゅんすけの幻想は完全に瓦解していた。画材メーカーで働く人たちは別に魔法の国の職人集団でもなんでもなくて、厳しい日本経済の中しゅんすけと同じように働くサラリーマンなのである。このおっさんも単にビジネスとして、日銭を稼ぐ手段のひとつとしてしゅんすけのトレス台に向き合っているに過ぎないのだ。もはやしゅんすけの中に幻想的な画材メーカーのイメージはなくなっていた。
とにかく、トレス台である。トレス台をいただければ、もはやここに用はないのである。
しかし、そう、ここまで来てさらに「しかし」が続くのである。
「いや、ここにはありませんよ。修理から戻ってきてませんから」
・・・あぁ、もうどういうことなのか。
しゅんすけの至福を演出してくれる画材たち。それを作る人たち。しゅんすけの中で彼らに対する憧憬や幻想はなくなってしまったけど、でもしゅんすけを幸せにしてくれる道具を作り続ける彼らへの尊敬はいささかも目減りしていない。彼らがしゅんすけと同じ世界で、非常に現実的に画材を作り続けているという現実を知っただけである。しかし、それで良かったのだろう。現実を知ることで、画材を取り巻く環境をより現実的に認識することができたのだから。うん、そうである。
さて、その後どうなったのか。しゅんすけのトレス台はどうなったのか。また続きがある・・・かもしれない。