さきこが会社の企画で岩手にボランティアに旅立った。金曜の深夜からバスで出発して、土曜日に被災地でボランティア活動をした後、深夜バスで日曜の早朝に帰宅するという弾丸ツアーである。
昨今の報道なんかに触れていると政府の被災地復興の政策は必ずしも被災地の復興や被災した方のためになっているとは言えないところもあって、しゅんすけ的には思うところが多々あるんだけど、ボランティアにはしゅんすけも関心があるし、それ自体はいいことなわけで、今回はさきこが一足先に体験してくることになった。最近のボランティアは、瓦礫の撤去や津波で流出した写真の洗浄(しゅんすけのグループ会社がこれをメインでやっていたな)など割と分かりやすい感じの作業ではなくて、一見あまり関係なさそうな作業もあったりするそうで、「復興に貢献してる」という実感は沸かないかもしれない。それでも、実際に自分の目で被災地を見てくるというのは、ただそれだけでも非常に重要なことだと思う。
さて、そんなわけで、さきこが不在となった今日、しゅんすけは何をしようかとずっと考えていた。今週の木曜辺りに「そうだ、せっかくなので、遠くまでサイクリングに行こう」と思い立ち、どこに行こうかとあれこれ考え、例えば箱根の峠越えをしてみようか、いや峠と言えばヤビツ峠を久し振りにチャレンジしてみるか、以前からやろうと思っていた山手線一周ツアーをやってみようか、多摩川を延々遡ってみようかといろいろ考えたんだけど、結論を得たのは、房総半島を走ってみようという案だった。
しゅんすけは2年ほど前にツールドちばに参加したことがあり、房総半島の太平洋側、外房エリアは走ったことがあったけど、内房や南房総はまだ足を踏み入れたことがなかった。内房に行くのは、以前参加していた吹奏楽団の合宿に行った時以来である。
内房のサイクリングコースは地図で検討してみると、久里浜から金谷港に着いて、北上するパターンと南下するパターンがあるようだ。どちらも突き出た大きな岬があって、その先端を折り返し地点にして帰ってくるコースができそうであった。しかし今回はひとりでのサイクリングなのでちょっと負荷の高い、南房総方面、州の崎にある灯台を目指して走ってみることにした。
そして、その顛末はまさに大戦争とも言うべき、ヒドい展開であった。
朝は5時に起床、家を6時過ぎに出て、京急線で久里浜へ。最寄り駅で輪行態勢にして電車に乗り込み、久里浜を目指した。こういう時は一般客に配慮して電車のもっとも前に乗るようにしているんだけど、既に先客がいた。この人もサイクリングに向かうようである。
久里浜駅で自転車を組み立て、久里浜港に向かって走り出す。朝の空気が少し冷たく感じて、陽射しは強いながらも秋が着実に迫っていることを感じさせた。
久里浜港で東京湾フェリーのチケットを購入。フェリーには自転車を畳まなくてそのまま乗り込めるようである。自転車で渡ろうとしているのはしゅんすけだけだった。
出港したフェリーの甲板に立って空を見ているとどうも気になる。神奈川の方は雲が薄くて高いところにあるのに、房総半島の雲はかなり低く暗い感じである。いやもっと言えば、南房総辺りは雲の灰色が陸地部分と同化してる感じで、これはつまり、遠くで雨が降っている様相であった。う〜ん、これは雨に遭っちゃうかもかな?
天気予報はかなり綿密にチェックしていて、確かに一定時間の降雨はありそうだけど、1ミリ程度だし、1時間ほど降った後はずっと晴れるとの予報だったから、しゅんすけはあまり問題視してなかった。この「1時間・1ミリの雨」だってこの時点の青空からは想像できなかったし、予報がハズれることだってあると思っていた。
そうである。今考えると天気予報はハズれたと言っていいだろう。しかしそれはサイクリングにとって良い方向にハズれるのではなく、悪い方にハズれたのである。
金谷港に到着して、サイクルウェアに着替えてサイクリング開始。しゅんすけにとって初めての内房サイクリングである。風が気持ちいいなーと思っていたのもつかの間、ほんの5キロも走らないうちに頬にポツポツと水滴が当たるようになり、これが目でも分かるくらいの降りになった。ちょうどその時はいくつかのトンネルが連続して現れる場所で、トンネルに入ると雨を避けられ、トンネルを出ると雨に打たれるを繰り返していた。
この雨が止んだのは15キロ辺りだったろうか。この時点では、先ほどの天気予報が言っていた「1時間・1ミリの雨」がこれで終わったと思った。つまりこれ以降は雨は振らないと。
しかしその予想は大きく裏切られ、20キロ辺り、館山の手前ほどでちょっとした本降り状態になった。これほど降るなんて聞いてない。一旦道の駅に避難して再度天気予報をチェックすると驚愕の情報が現れた。
この先、5ミリほどの雨が2〜3時間くらいにかけて降るようなのである。天気予報がいつの間にか大きく様変わりしていたのである。
そこで考えてしまった。
このままサイクリングを続けるか、今回は諦めて引き返すか。
しかし目的の州の崎灯台まで残り10キロ程度である。ここまで頑張ってきて引き返すのはもったいないような気がした。雨雲レーダーなんかの情報では、大きな雨雲が形成され徐々に近づいてくるように見えたけど、まだ時間がかかりそうだった。せっかくの目的地を前に引き返すのはやはりもったいなくて、このまま進むことにした。
一緒に雨宿りしていたネコがずっと眠ったように目を閉じていたんだけど、しゅんすけは自転車にまたがると「行くの?」って感じで目を開けて面倒くさそうに見上げたのが印象的だった。
自転車を走らせると間もなく館山の市街地に到達。内房線はここから大きく迂回して鴨川の方に向かい、外房線に合流する。しかししゅんすけの目的地はこの路線とは違う方向に伸びていた。電車と並走しないということは、何があってもリタイアすることができないことを意味していた。
こうして天気を気にしつつも10キロほど走って洲崎灯台に到着した。うん、なかなか可愛い感じの佇まいである。
今回のコース検討の際に、ネットで見たこの灯台の写真をどこかで見たことがあるなーと思い、考えてみたらこれが某アイドルグループの某楽曲のプロモーションビデオの中に登場する灯台であることに気づき、いや、これを気づいてしまったことにちょっとショックだったりした。別に意識して見ていたわけでも猛烈に好きなアイドルグループでもないのに、深層心理ではそうじゃなかったのか・・・と。
ともかく、この灯台の到達が旅の到達点である。後は引き返すのみである。灯台やそこから見える景色の写真を撮った後、その灯台を後にして駐車場近くに置いてあった自転車まで来た。
その時である。物凄い豪雨に見舞われた。
豪雨、まさに台風とかゲリラ豪雨という感じの降り方である。雨の強さに息遣いを感じるような、その場に立っていると数秒でずぶ濡れになってしまうような降りっぷりである。
これには驚いた・・・というか呆然としてしまった。
天気予報で示されていたような1ミリとか5ミリとかそういうレベルを大きく超越した降り方である。以前ヤビツ峠に行った時に遭遇した通り雨やツールドちばの2日目の朝に体験した土砂降りと同じくらいの降り方である。陳腐な言い方だけど、バケツをひっくり返したってやつ。天気予報がハズれたとかそういうレベルを大きく超越していて、しばらく呆然としてしまった。
灯台の近くの売店に逃げ込み、ここでは軽い食事なんかができるようにテーブルと椅子が設置してあったので、菓子パンなぞを買ってもくもくと食べてやり過ごすことにしたんだけど、雨はなかなか降り止まない。
さてどうするか。
このままこの場で待つという手もある。天気予報によると(・・・って今後どこまで信頼できる情報をくれるか分からないけど)2、3時間後には晴れるようである。それまで待つか。既に先ほどの雨でウェアはびしょ濡れである。もはや快適なサイクリングは望むべくもないのであれば、少しでも早くこのサイクリングを終わらせるようにしたい。いや、ここからまた40キロを引き返すのもかなり大変である。事故に遭う恐れもある。気になるのは、雨雲の状態である。まとまった雨を降らせる雲が徐々に近づいているように見えるのだ。晴れはこの雨雲の通り過ぎた後にやってくるようである。
それにしても、この状況はどうだ。晴れると判断してサイクリングに出発したのは誰あろうしゅんすけ自身だけどさ、天気予報がここまで不安定になることはないだろう。昨日までずっと雨など降らなかったのである。昨日までの晴れは今日の晴れの予報に繋がっていると、昨日までと同じように晴れるものだと思っていた。それなのになんだ、今日だけ天気のテイストが変わってしまったようである。しゅんすけが出かけると雨が降るという恨めしいジンクスがあるのは確かだけど、ホントここまでヒドいと恨めしいというかモチベーションが下がるわ。
もはやこの雨の中を40キロも走ることはできない。2、3時間も待つこともできない。そう言えば、昼食もまだ食べていなかったけど、この辺りにはほとんど飲食ができる店がない。ファミレスもコンビニもないのだ。だから決めた。雨が弱まってきた間隙を縫って館山まで帰ろう。館山にはショッピングセンターがあったハズで、そこで安物でも服を購入しよう。濡れた服を脱いだら館山駅まで行って電車で帰ろう。
そうである、しゅんすけはリタイアを決心したのだ。
ちょうど雨が小降りになってきたので、これが次の雨雲までのインターバルだと判断、自転車に乗ってペダルを踏み込んだ。
サイクリングを楽しむという走りではない。とにかく早く館山までの10キロを走ること、そのためにとにかくペダルを回すこと。ただそれだけを考えて走った。コンスタントに時速30キロくらいで走り続ける。景色を楽しむ余裕もない、事故をギリギリ回避できそうな最高速度である。
この頑張りのおかげで思ったより早くに館山市街に入ることができた。幸い小雨程度の雨は止んでいて、迫ってくるハズの雨雲は見えなかった。青空が見えているところもあった。
ともかくショッピングセンターに到着。着ていたサイクルウェアは雨と汗でしとどに濡れているばかりか、自転車の後輪が撥ね上げた路上の泥で汚れてしまっていた。背負っていたリュックサックも雨と泥でどろどろな状態。
しとどに濡れた服でショピングセンターを徘徊するのは気が引けたけど、安物の服を見つけてトイレで着替えると少し気分がさっぱりした。気分が良くなるとお腹が空いてきた。館山駅まで行って駅前の食堂でマグロ丼なぞ食べた。
実はこの日は館山辺りでお祭りをしていて、房総地域の祭なんてかなり興味深いものがあったんだけど、既に心折れてしまったしゅんすけはもはや帰ることしか考えられなかった。
見上げるとあれほど暗い雲が垂れ込めていた空は青く、所々雲があるものの完全に晴れモードだった。懸念されていた豪雨の第二波は結局来ないまま、こうして晴れてしまったわけである。
思えば、ショッピングセンターで服を買い、着替えてしまった瞬間にしゅんすけのサイクリングは終わってしまっていた。あのまま買った服をリュックサックに収めて、濡れたウェアのまま走り続けるという手もあったかもしれない。濡れたウェアはこの強い陽射しで乾いていき、金谷港に到着する頃には汗で濡れている以外は普通の状態になったかもしれない。そしてそこで買ってきた服に着替えるということもできたかもしれない。そうすれば雨を心配するサイクリングではなく、少なくとも復路だけは気持ちいいサイクリングが楽しめたかもしれない。いや、もうどうにもならないことである。しゅんすけは天気にも天気予報にも翻弄され、この日をほとんど棒に振るように終えてしまった。そう思うと非常にイタタマれない。こんなことなら自宅で絵なぞ描いていた方が良かったかもしれない。
しかし、今回のサイクリングコースは、コース自体は近場である割にはとても快適だった。信号がほとんどないので、走り出すと巡航速度のままかなり長い時間を走っていられる。だから今回のサイクルコンピューターが表示する平均速度は普段のサイクリングよりもかなり早い記録になった。難なのは道が狭いところで、トラックなんかが通り過ぎる時はちょっと怖かった。路面の状態によっては道の端が走りにくいところもあって、そういう時はクルマが追い抜きにくくなるからちょっと申し訳なかったかな。地図の上では、東京湾沿岸の道を選択して走ったのだけど、実際に海沿いを走るという感じはあまりなくて、視界に見えるのは畑とか山とか牧歌的な田舎的風景である。これは以前参加したツールドちばもそうだったから、つまり千葉の沿岸道路は湘南のような感じとはまったく異なるということである。
天気が悪いせいでネガティブなことをつらつらと書き綴ってしまったけど、コースだけで言えば悪くない道であった。京都チャレンジ、野辺山チャレンジに続く「俺的チャレンジ」で、内房・南房総・外房のサイクリングを候補にあげているんだけど、あながち悪くないかもなと思っている。そうだ、思えばこのまま終わることはできないだろう。どこかでもう一度このコースを走らなければ。晴れの日にもう一度洲崎灯台から東京湾を見渡す景色を見てみたい。そうである、しゅんすけの房総ライドはまだまだ続くのである。
※写真を追加。
※久里浜港にて出港前の東京湾フェリー。
※自転車を格納。船員さんが対応してくれた。
※出港。振り返るとうっすら富士山が見えていた・・・のに、ね。
※金谷港に到着してすぐの写真。もう既にかなりヤバめな空模様。
※路上の風景。ほとんど海沿いという感じではない。なのに、道の途中にこういうオブジェ(?)あったりする。
※館山に到着。晴れていたらきっといい雰囲気の街なんだろうなー。
※遠くに灯台が見える。
※灯台からの風景。曇り空と黒い海。灯台自体は可愛らしい感じである。この直後にとんでもない雨に見舞われる。
※何とか館山に辿り着いたもののしゅんすけにはもはや1ミリグラムほどのモチベーションが残っておらず、みるみる空が開けていく中、帰途に就いたのである。またチャレンジだっ!