最近はフェイクニュースだのソースが怪しいキュレーションサイトなど、ネット上にはびこる信用できない情報が問題視されている。たとえばアメリカ大統領選の裏には、世論を誘導しようとする嘘ニュースがあったみたいな話しもあって、もしそうだとすると、もはやネットから情報を得ること自体がリスクになりそうだけど、「肩が凝るのは、背後霊の仕業かもしれません」なんて大真面目にアドバイスするようなアホなキュレーションサイトを見て「バッカで〜」と笑っていられるうちは、まだ大丈夫なのかなーと思う。
しかし、先日読んだニュースは、ホントにちゃんとしたニュースなのか分からず、「もしかしてぼくは試されているのか?」と思ったものである。
アメリカの天文学の研究所でここ数年何度か観測している「高速電波バースト」と呼ばれる現象が、もしかしたら宇宙人の仕業かもしれないと発表したのである。
光速電波バーストという現象をぼくは知らなかったのだけど、強い電波がほんの一瞬だけまたたく現象のようで、その発生源は地球から数十億から100億光年ほども離れているそうである。そんな深宇宙から数ミリ秒という極めて短時間の電波が発射される現象は自然界では考えられず、人為的なものとしか説明ができないそうなのだ。
たとえば、宇宙船にエネルギーを供給するための巨大な電波送信機があって、この機械から漏れたエネルギーが高速電波バーストの正体ではないかとか、太陽光帆船のような宇宙船に圧縮した恒星のエネルギーを照射するための装置ではないかとか、いずれにしても今の人類の科学力では到底不可能な技術だけど、高度に進化した地球外の知的文明なら可能ではないかというわけである。
ついに宇宙人が存在する証拠を見つけたというわけである。
宇宙人が存在するかどうかを考える時、考慮しなければならないのが「未だ地球人は宇宙人と出遭ったことがない」という揺るがない事実である。これをどう解釈するか、宇宙人が存在するかしないかの一つのポイントなのである。
「宇宙人は存在する」という立場では、既に宇宙人は地球に到達していて地球人に成りすまして生活しているから地球人は宇宙人と出遭っていないと思い込んでいるんだとか、太古の昔には宇宙人は地球人と接触していて、ピラミッドやクリスタルのドクロなど、当時の人類にはなかった科学力でいろいろ残してきたけど、それは有史以前の話し記録が残っておらず、今は既に宇宙人が地球を去った後だから、出遭っていないと思っているだけなのだなどと主張している。
一方で「宇宙人は存在しない」という立場では、まさに「現に宇宙人と出遭っていない」ことをそのまま証拠として主張している。出遭っていないんだから、そもそも存在しないのだというわけである。
ちなみにその中間として、「いるにはいるけど、彼らは地球からあまりにも離れているので、コンタクトする方法がないのだ」なんていう主張もある。また、地球との距離が比較的近くて、その距離を航行する科学力もあるんだけど、他の星のことに興味がないのかもしれないなんていう人もいる。つまり宇宙人は、地球人のように夜空の星を見上げて「この星々のどこかに自分と同じように空を見上げている人がいるかもしれない」なんておセンチなことは思わないというわけである。
「恒星はたいてい1個から数個の地球型惑星を従えていて、そんな恒星は銀河には何万もあり、宇宙には銀河が何万もある」という事実を思う時、ぼくはやはり宇宙人はいるんだろうなーとは思う。アインシュタイン先生が言う通り、光を超える速度は絶対に出せないから、数十光年以上に離れている星には現実問題として行くことができないというわけである。つまり宇宙人は存在するけど、決して会うことができない存在なのだ。
そんなぼくの立場から考察すると、今回の高速電波バーストのように、遠くの宇宙で宇宙人が宇宙船を動かした痕跡が見えたかもしれないというのは、非常に興味深い。遠くに宇宙人の痕跡を見たというのは、目の前に宇宙人が現われて意思疎通を図り、そのおかげで地球の遅れた科学力が飛躍的に向上するなんて夢みたいな話しではないにしても、この宇宙には地球以外に生命が息づいているのだと知ることは、人類に新しい世界観を与えるものだと思うのである。
しかし、である。
これ、ホントに宇宙人と断定していいのだろうか。
光速電波バーストを電波送信機から漏れたエネルギーだと想像してるけど、高度に発達した文明が作り上げた巨大な電波送信機が遠くの星の人たちに観測されるほどのエネルギーを漏らしちゃうようなことがあるのだろうか。太陽風帆船に照射する高エネルギーの太陽風が帆の大きさからはみ出して、それが遠くにいる地球に観測されるなんてことがあるだろうか。巨大な電波エネルギーを得られるほど科学が発達した文明で、「送信する時に電波が漏れちゃいました」とか「帆の大きさをはみ出すほど広範囲に太陽風を当てちゃいました」なんて原始的で非効率なことがあるのかな。効率よく巨大なエネルギーを得ようとするなら、漏れたりはみ出たりしないような機械を開発するものじゃないのかな。高速電波バーストを説明するために想像する宇宙人の科学力は、なんだか無駄が多いような気がするのである。これじゃ科学が発達してんだか、してないんだか分からなくなるわ。
いや、高度に発達した宇宙人の科学力を地球人ごときが想像できるわけがないのだとも言える。もっと別の目的、別の装置があって、その何らかの影響が高速電波バーストとして地球人に観測されているのかもしれない。それが何なのか分からない。そうなると、もう何が何だか分からないけどね。
そんな風に思う時、「パルサー」のことを思い出す。
パルサーとは宇宙に存在する特殊な天体のことである。恒星がエネルギーを使い果たし、エネルギーを放出する力が自身の重量とバランスを失った時に恒星はいろんな形でその姿を変える。超新星爆発をするものもあれば、物質を凝集して矮星になる場合もある。矮星の中でもエネルギーの残滓や凝集による新たなエネルギーなどが自身の中に蓄積されるものもあって、これが火山噴火のようにある一点から放出されるようなことがある。強いエネルギーが天体の一点から放出されるのである。天体の極以外に放出口ができたりすると、天体の自転に合わせてエネルギーが周辺にまき散らされることになる。遠くの天体がパルサーになって、エネルギーの放出口の延長線上にたまたま地球があったとすると、地球でそのエネルギーを観測できるのは、自転に合わせて噴出口が地球に向いたときだけということになる。つまり灯台の灯りのように、一定時間をおいてパッと光り、また一定時間後にパッと光るように見えるわけである。
パルサーが初めて観測された時、上に書いたようなパルサーの仕組みが分かっていなかったから、地球からの見かけでは一定時間をおいてまるで点滅するように信号が送られてくるように見えて、「これは地球に向けた何らかの信号だ」「宇宙人が地球に何らかのサインを送っているに違いない」と騒ぎになった。「やはり宇宙人はいたんだ!」となったわけである。
しかし、パルサーの仕組みが解明されて、自転によって定期的にエネルギー噴出口が地球に向いただけだということが分かったのである。矮星のある一点からエネルギーが噴出するなんてことは、よく考えてみればあり得そうな話しで、宇宙人の存在なんて突飛な考えに飛びつく前にちょっと冷静に考えれば分かりそうなものである。パルサーが定期的に信号を送ってるように見えるというのは、考えてみれば非常にアナログ的というか、単純な話しなのだ。
ニンゲンには、「自分以外に宇宙には知的な存在がいて欲しい」と思いたい気持ちがあるのだろうか。「我々は想像するにあまりあるほど広大な宇宙にたったひとつだけの奇跡的な存在なのだろうか」という疑問に、どうしても反論したいのだろうか。
今回の高速電波バーストにしても、考えてみれば案外単純な話しなのかもしれない。
その仕組みが解明されてみると、巨大な電波送信機や太陽風帆船を考える前にどうして思いつかなかったのかと思うようなものかもしれない。しかし、パルサーが発見されて、人為的なものかもしれないと勘違いした時代とは違う。そういう誤謬も含めて、知見として身についている科学者が、宇宙人かもしれないと判断したのである。ぼくの中にも「もしかしたら・・・」という思いがある。このニュースを信じたいと思う気持ちが存在するのだ。
フェイクニュースは何らかの意図があって人を誘導するものだけど、それよりも前に情報を受ける人が、事実に対してニュートラルであることを求められる、というわけである。ネットにはびこる嘘の情報は、結局のところ受け手側の問題なのかもしれないね。